技術情報
材料シミュレーションは、ナノテクノロジーや半導体、材料開発の分野で重要な役割を果たしています。近年、Python を活用して材料シミュレーションを自動化 し、より効率的な解析を行うケースが増えています。
本記事では、Python を使って Adbvance/NanoLabo で材料シミュレーションを行う方法 を解説します。初心者でも簡単に始められるように、基本的なセットアップから計算の実行、データ解析までを丁寧に紹介します。
Python を材料シミュレーションに活用することで、以下のメリットがあります。
計算の自動化が可能
手作業では面倒なシミュレーションの設定をスクリプトで簡単に実行
データ解析の効率化
計算結果を Python のライブラリ (NumPy、Pandas、Matplotlib など) で解析できる
外部ツールとの連携が容易
既存の材料データベースや機械学習モデルと連携して高度な解析が可能
◆Python のインストール
まず、Python がインストールされていない場合は、以下のコマンドでインストールします。
sudo apt install python3 # Ubuntu
brew install python # macOS
または、公式サイトからダウンロードできます: Python公式サイト
◆必要なライブラリのインストール
Python で材料シミュレーションを行うために、以下のライブラリをインストールします。
pip install numpy scipy pandas pymatgen scikit-learn porespy radonpy
このコマンドは以下のライブラリをインストールします
[1]Advance/NanoLaboのインストール先にあるnanolabo.pyファイルを使用します。
[2]Pythonスクリプト内で以下のようにインポートします
import nanolabo
なお、WindowsでNanoLaboのPython APIを使用する場合は、pywin32モジュールが必要です。これは以下のコマンドでインストールできます。
python -m pip install pywin32
【ステップ1:計算モデルを作成】
まず、Python を使って計算モデルを作成します。ASE (Atomic Simulation Environment) を使用して、シリコン (Si) 結晶構造を定義してみましょう。
from ase.build import bulk
# ダイヤモンド構造のシリコン結晶を作成
si_crystal = bulk("Si", crystalstructure="diamond", a=5.43)
このコードでは以下のことを行っています
[1]ASEのbulk関数を使用して、シリコンの結晶構造を作成します。
[2]"Si"は元素名を指定します。
[3]crystalstructure="diamond"でダイヤモンド構造を指定します。シリコンは典型的にダイヤモンド構造を取ります。
[4]a=5.43で格子定数を指定します。これはシリコンの一般的な格子定数値です(単位はオングストローム)。
作成した結晶構造はsi_crystal変数に格納されます。この構造を可視化したり、さらに操作したりすることができます。
結晶構造の情報を表示するには
print(si_crystal)
結晶構造を可視化するには、ASEのビューワーを使用できます。
from ase.visualize import view
view(si_crystal)
【ステップ2:Adbvance/NanoLabo に計算を送信】
作成した材料データを Nanolabo API を使って送信し、計算を実行します。
import nanolabo
from ase.build import bulk
# シリコン結晶構造の作成
si_crystal = bulk("Si", crystalstructure="diamond", a=5.43)
# NanoLabo APIのセッション開始
session = nanolabo.Session()
# ASE Atomsオブジェクトをnanolaboに変換
nl_structure = session.to_structure(si_crystal)
# 計算条件の設定
calc = session.Calculator()
calc.set_xc('PBE') # 交換相関汎関数の設定
calc.set_kpoints([4, 4, 4]) # k点の設定
# 計算ジョブの作成と実行
job = session.Job(structure=nl_structure, calculator=calc)
job.run()
# 結果の取得
results = job.results()
print(results.total_energy)
このコードでは、以下の手順を実行しています。
[1]ASEを使用してシリコン結晶構造を作成します。
[2]NanoLabo APIのセッションを開始します。
[3]ASEのAtomsオブジェクトをNanoLabo APIで使用可能な構造に変換します。
[4]計算条件を設定します (この例では交換相関汎関数とk点を設定)。
[5]計算ジョブを作成し、実行します。
[6]結果を取得し、表示します (この例では全エネルギーを表示)。
注意: このコードは一般的な例であり、実際の使用にはNanoLabo APIのドキュメントを参照し、適切な設定やエラー処理を行う必要があります。また、NanoLabo APIの具体的な使用方法や利用可能な機能は、インストールされているバージョンやライセンスによって異なる可能性があります
【ステップ3:計算結果を解析】
計算が完了したら、Python で結果を取得して解析します。
import nanolabo
# セッションを開始
session = nanolabo.Session()
# 完了した計算ジョブを取得(ジョブIDを指定)
job = session.get_job("job_id")
# 結果を取得
results = job.results()
# 全エネルギーを取得
total_energy = results.total_energy
print(f"全エネルギー: {total_energy} eV")
# バンドギャップを取得
band_gap = results.band_gap
print(f"バンドギャップ: {band_gap} eV")
# 原子座標を取得
atomic_positions = results.atomic_positions
print("原子座標:")
for atom, position in atomic_positions.items():
print(f"{atom}: {position}")
# 状態密度データを取得
dos_data = results.dos()
energies = dos_data.energies
densities = dos_data.densities
# 結果の可視化(例:状態密度のプロット)
import matplotlib.pyplot as plt
plt.figure(figsize=(10, 6))
plt.plot(energies, densities)
plt.xlabel("エネルギー (eV)")
plt.ylabel("状態密度")
plt.title("シリコン結晶の状態密度")
plt.show()
このコードでは以下の操作を行っています
[1]nanolabo.Session()でセッションを開始します。
[2]session.get_job()で完了した計算ジョブを取得します。
[3]job.results()で計算結果を取得します。
[4]全エネルギー、バンドギャップ、原子座標などの基本的な結果を取得して表示します。
[5]状態密度 (DOS) データを取得し、matplotlibを使用してプロットします。
注意: 実際のAPIの使用方法や利用可能な関数は、インストールされているNanoLabo APIのバージョンによって異なる可能性があります。詳細な使用方法については、Advance/NanoLaboのPython APIドキュメントを参照してください。
Python の強みを活かし、機械学習と組み合わせた材料開発 も可能です。例えば、計算結果を scikit-learn を使って機械学習モデルに適用することができます。
import numpy as np
from sklearn.model_selection import train_test_split
from sklearn.ensemble import RandomForestRegressor
from sklearn.metrics import mean_squared_error
# NanoLabo APIから結果を取得
session = nanolabo.Session()
job = session.get_job("job_id")
results = job.results()
# 特徴量と目的変数の準備
features = np.array([results.atomic_positions, results.lattice_parameters]).flatten()
target = results.total_energy
# データの分割
X_train, X_test, y_train, y_test = train_test_split(features, target, test_size=0.2, random_state=42)
# モデルの選択と学習
model = RandomForestRegressor(n_estimators=100, random_state=42)
model.fit(X_train.reshape(-1, 1), y_train)
# 予測と評価
y_pred = model.predict(X_test.reshape(-1, 1))
mse = mean_squared_error(y_test, y_pred)
print(f"Mean Squared Error: {mse}")
このコードでは以下の手順を実行しています
[1]NanoLabo APIから計算結果を取得します。
[2]特徴量 (原子位置と格子パラメータ) と目的変数 (全エネルギー) を準備します。
[3]データを訓練セットとテストセットに分割します。
[4]RandomForestRegressorモデルを選択し、訓練データで学習させます。
[5]テストデータで予測を行い、平均二乗誤差 (MSE) を計算して評価します。
注意:このコードは単一の計算結果に対するものです。実際の機械学習では、多数のデータポイントが必要です。また、特徴量の選択や前処理、モデルの選択と最適化など、さらなる手順が必要になる場合があります。